書評⑧ 『ルワンダ中央銀行総裁日記』

ルワンダ中央銀行総裁日記 (中公新書)

服部 正也 / 中央公論新社

日本銀行から国際通貨基金を通じてルワンダ中央銀行の総裁を務めた著者による当時の回想記。著者は1年間の約束で現地に赴任したが、ルワンダの大統領の要請で通貨改革その他の計画、実施とその後の経過を確認するまで総裁の地位に留まってほしいと要請され、6年間現地で業務に取り組んだ。ベルギーから独立して間もない小規模な発展途上国であるため、中央銀行に勤務する部下の数も能力も限られているなかでの任務となり、業務を軌道に乗せるまでの過程で困難を強いられている様子が詳細に記述されている。著者の任務の重要部分を占める通貨改革の実行に当たっては、大統領の命により全て1人で立案し、国際通貨基金の了承を得て実行するという重大な責任を負っていたとのことである。

 本書が伝える著者の印象として最も感銘を受けたのは、著者が常に公正な立場で業務に臨み、職業人としての姿勢を貫いたことである。著者は、自分自身の業績の中で優れている点として、就任当時既得権益をむさぼっていたベルギー系の商人等の権利擁護を目的とする進言を無視し、ルワンダ国民の意見と自分自身の判断のみによって改革を立案、実行したことを挙げている。実際、任期終了時には、大統領を始めとしてルワンダ人の政府関係者だけが著者の自宅に集い、大統領による謝辞を受けている。また、業務内容に問題のある部下を罷免するなど、決断を要する場面でも私的な感情を排して公正な判断を行っている。部下との関係は努めて距離を置くようにし、重大な過失を部下が行った場合には躊躇なく解雇を通告している。解雇等、職務上の厳しい判断は日本人が得意とするところではないと思われるが、著者は個々に対する特別な配慮を排して冷徹な判断を下している。

 中央銀行総裁としての業務における判断力、実行力においても特筆すべきものがある。著者は自分自身が判断を下す前に徹底的に情報やデータの調査を行い、自信を持って方針を決定し、それを実行に移す際には周囲の批判等に流されず、当初の意思を貫いている。ルワンダを牛耳る外国人既得権者からの圧力は少なからずあっただろうし、大統領に命じられたことから誰にも改革の内容について相談できないという制約もある中、自分の考えだけを信じて方針を貫き通すのは簡単なことではないと思われる。その中でも自分自身の分析能力と結果を信じて業務を完遂した事実から、凄まじい信念と意志の強さを感じる。

 文章そのものは中央銀行総裁として携わった通貨切り下げとそのための経済改革 を振り返ったテクニカルで淡々としたものだが、その背後に感じ取れる一職業人としての意識の高さが読者に強い印象を与える。本書の刊行は1972年で、その後年月を経て絶版となり、著者は1999年に亡くなったが、読者からの要望に応えて再版が決定されたとのことである。読書からの要望が今だにあるのは、ルワンダが大虐殺の関連で注目されているという理由が強いと思われるが、本書で窺い知れる著者の国際社会での活躍と、その背後にある職業人としての人格が魅力的であるという理由もあるのではないかと感じた。

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by ubuntuk | 2011-04-01 06:57 | 書評
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