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Fletcherと日本との関係は極めて良好である。Fletcherに在籍する留学生の中で日本人は最大であり、日本とともにTop 5を形成する韓国、トルコ、イギリス、メキシコ国籍の学生と比べても格段に人数が多い。これは日本の学生が優秀だからというよりは、日本政府やスポンサー企業と良好な関係を維持したいという意図がFletcherにあるためと思われる。

日本人学生の大多数は政府または政府系機関からの派遣で留学して来ている。民間企業出身者は少ない。出自が政府機関に偏ってはいるものの、各学生の所属先は多様である。自分が在籍した2年間の中で共に学生生活を送った3学年の政府機関出身者の派遣元は、外務省、財務省、経済産業省、防衛省、環境省、農林水産省、警察庁、水産庁、海上保安庁、日本銀行、DBJ、JICA、JETROと、多岐に亘っている。

Fletcherは日本銀行理事を務めた緒方四十郎氏のパネルや、日立製作所の磯辺朝彦氏を記念して作られたIsobe Room、同じく日立製作所が支援するHitachi Center for International Affairs等が設置されている。また、笹川平和財団も支援を行っており、日本人や日本の組織によるFletcherに対する支援は多いようだ。

日本人学生を多く受け入れてもらえるのは、支援を行っているからという理由だけではないと思う。日本人の学業成績が他国の学生に比して極めて低ければ、合格人数が削られることもあるだろう。しかしながら、日本人学生の成績は比較的良いようで、そこは問題になっていないと思われる。ビジネススクールのようにクラスでの発言が成績の半分を占めるようなカリキュラムでは、日本人の活躍は難しいかもしれない。バブル期に日本人学生を多く受け入れたトップビジネススクールは、現在では日本人の留学生の合格を相当絞ってしまっているようだ。それに比べると、試験やペーパーを中心とする日本人に不利になりにくいカリキュラム構成を採っているFletcherは、日本人が能力を発揮しやすいかもしれない。

国際関係大学院の中では留学生にTOEFLやGREであまり高いスコアを要求しないという点も、Fletcherに日本人が受け入れてもらいやすい要因である。TOEFLについては、公式には100点としている点数のハードルを下回っていたとしても、合格が出るケースは多くある。GREは、「日本人はMathの点数が良いことは分かっているし、語学能力はTOEFLで見るので、Verbalが仮に350であっても気にしない。」とAdmissions Officeのディレクターがキャンパスビジット時の面談で名言していた。Harvard KSGは留学生の選考基準にVerbalで400点、Mathで800点、TWEで4.0というスコアを設けているそうなので、それに比べるとハードルが低いと言える。印象では、Georgetown MSFS、Johns Hopkins SAISも同等かそれ以上のスコアを求めているようである。一方でColumbia SIPAはFletcherと同様の基準を設けているようで、SIPAとFletcherに合格というケースは多いようだ。Fletcherの合格者レセプションに来ていた人のうち何人かは進学先をSIPAと迷っており、最終的にSIPAとFletcherに進学者が割れるという結果になっていた。

Fletcherは日本人出願者の共通テストに対する期待値がそれほど高くないものの、職務経験、海外経験についてはある程度詳細にチェックしているようである。特に、政府機関のような公共性の高い勤務先で国際交渉や海外プロジェクトの経験を積んでいる出願者は、好んで合格させているように思われる。一方、ビジネススクールであれば喜んで受け入れてもらえるような、民間企業で輝かしい経験を積んだ出願者であっても、出願書類の内容がFletcherの審査基準に合致していなければ、不合格やWaitlist入りになることもあるようだ。

どのような事情があるにせよ、日本人出願者の留学がビジネススクールを筆頭に困難になっている昨今、日本人を好んで受け入れてくれることは大変ありがたいことだ。出願を検討しているがTOEFLやGREのスコアに自信がないという場合でも、国際性や公共性のある業務を政府機関等で十分に積んできた出願者であれば、合格可能性は十分にあると思われる。もちろんTOEFLの点数が低ければ低い分だけ入学後に苦労することにはなるが、入学して様々な課題に追われる中で、保有するスコアに関係なく語学力を伸ばしていると思う。自分自身もTOEFLは100点を少し超えた程度のものなので偉そうなことは言えないが、何とかなってはいる。
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Fletcherにおける2年間で得られる能力は様々なものがあるが、最も伸びるのはライティング能力である。学問重視の国際関係大学院として、ある程度長文のペーパーを執筆することを求める授業の割合がFletcherには多い。自分自身が2年間で書いたペーパーの枚数は、修士論文と合わせて200ページを超える。それ以外にグループレポートやペーパーもあるので、全て合わせると300ページ超になるだろう。最初の学期から25ページ指定のペーパーを書かされるなどして苦労したが、4学期分の授業を終えてある程度長いペーパーでも論旨を一貫させて完成させることができるようになり、ある程度の達成感を得ることができた。

ライティングの課題を授業別に挙げると下記の通り。

Fall 2010
D220 Processes of International Negotiations: 中間ペーパー10枚+期末ペーパー25枚
E240 Development Economics: ポリシーメモ2枚
B200 Foundations in Financial Accounting and Corporate Finance: グループレポート5枚x3+ファイナルプロジェクトペーパー5枚

Spring 2011
L233 International Financial and Fiscal Law: 中間ペーパー10枚
E241 Development Economics: Policy Analysis: 期末グループペーパー30枚
B220 Global Financial Services: 期末ペーパー15枚

Fall 2011
L230 International Business Transactions: グループ作成契約書+個人レポート5枚
E243 Agriculture and Rural Development in Developing Countries: 期末グループペーパー30枚
B226m Large Investments and International Project Finance: グループレポート6枚+期末レポート6枚
B260 International Marketing: 期末グループペーパー20枚

Spring 2012
P205 Decision Making and Public Policy: ポリシーメモ2枚x3
P266m Islamic World: 中間レポート5枚+期末レポート15枚
B221 International Financial Management: グループレポート5枚x3+グループプロジェクト20枚
B225 Corporate Finance and Banking: A Comparative East Asian Perspective: 個人レポート5枚x3+期末レポート20枚

Thesis
60-100枚

これだけ多くを書かされる中で、ライティング能力は必然的に付く。自分はThesisの分量でライティングを行った際に、構成や英文表現が乱れてしまったが、20枚程度までの個人ペーパー程度であれば、問題なく書けるようになった。最初の学期はこれだけ長いペーパーを数多く書くことに能力的にも時間的にもついていけないという印象があったが、4学期終えてみると、かなり進歩したという印象がある。特に最終学期は、それまで自信がないが締め切りが迫っているので分量を揃えて提出する、という流れに終始していたペーパーの質を、自信を持って期限前に提出できるレベルまで持っていくことができた。

ライティングに次ぐ能力としては、ディスカッションとネゴシエーションに関する能力が挙げられる。FletcherのDiplomacy, History and Politics (DHP)の授業のうち、DiplomacyとPoliticsに関しては、卒業後に米国国務省や他の省庁で実務に就くことを希望する学生のニーズを想定し、政策決定交渉に関するロールプレイが用意されている。これはノンネイティブにとって非常に厳しいものだが、積極的に議論に参加する意欲があれば、得るものは多いだろう。自分はInternational Finance and BankingのCertificateの必修になっているD220 Processes of International Negotiationsという授業を最初の学期に履修した。これはHarvard Law Schoolが開発した交渉の授業形態を取り入れたもので、ケースを通じて様々な交渉のロールプレイを学生同士で行うものである。自分は入学したての学期だったということもあり、シミュレーションで議論に付いていくのに相当苦労した。また、必修ということで嫌々履修していたこともあり、あまり面白いと感じることもできなかった。きちんと英語で意見が言えるようになりたいという意識を持っている学生であれば、こうした交渉やディスカッションを重視する授業を固めて取ってみるのもいいかもしれない。

ライティングに重点が置かれるFletcherのカリキュラムの中で、ビジネススクール等他の専門職大学院に比べて不足するのは、プレゼンテーションやグループワークの量だろう。プレゼンテーションについてはMIBの必修科目になっている中南米やイスラム圏、欧州といったArea Studiesのモジュール授業等で意図的にプレゼンテーションの機会を設けているものはあるが、普通にMALDの必修科目を履修しているだけでは座学と試験、ペーパーのみで終わってしまうものも多い。人前で個人プレゼンテーションを一定の時間をかけて行う授業は、自分の場合2科目しかなかった。グループプレゼンテーションを含めても5科目のみである。プレゼンテーション能力やグループディスカッションの能力を高めたいと考える学生は、意図的にMIBの履修科目になっているEconomics and International Business (EIB)の授業を多く取ってみるといいかもしれない。自分が行った個人プレゼンテーション2つのうち両方、グループプレゼンテーションを含む5科目のうち4科目はEIBの授業だった。ビジネスの現場で必須と考えられるプレゼンテーションやグループディスカッションの能力は、国際関係大学院の授業ではあまり重視されていない。ビジネススクールのカリキュラムを意識しているEIBの授業では、そちらにも重点が置かれている。
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Fletcher校風は、コミュニティという言葉で表現される。これは学生が非常に親密な関係の中で学生生活を送ることを表している。国際関係大学院は専門職大学院の中ではどこも規模が小さく、1学年100人未満のPrinceton WWSやGeorgetown SFSを筆頭に、比較的少人数で密度の濃い学生コミュニティを形成する。Fletcherの人数は1学年200名強で、内訳はMALDが175名程度、MIBが30人程度、LLM、MAがそれぞれ10名強程度となっている。1学年の人数は国際関係大学院の中では平均的だが、学生間のコミュニティ意識を醸成する校風が他校に比べて強いと言われている。

一方で、大学院側が公式にこうしたコミュニティ作りを促している訳ではない。週1回のSocial Hourという学生の懇親会などが用意されてはいるものの、他の国際関係大学院に比べて目立ったコミュニティ作りの活動がなされている訳ではない。また、GPAを正式に発表して順位を付けるということを行わず、競争よりも協業を促すという明確なスクールポリシーはあるが、それのみがコミュニティ意識醸成の強い根拠となっている訳ではないと思われる。それでも、より少ない人数のプログラムを持つ大学院に比べて、Fletcherは学生同士の仲が良く繋がりが強いと言われることが多い。自分自身もキャンパスビジット時に在校生から親切に対応してもらったし、Fletcherにキャンパスビジットをしたことがある他の大学院の学生のブログにも、学生が皆Politeでにこやかと書かれているものがあった。

何がFletcherの学生の雰囲気を作り出しているのかは明確に分からないが、個人的には下記の3点がFletcher特有のものとして存在しているように思われる。1点目は国際関係大学院に共通していることであるが、差別や格差の是正に関心を持ち、卒業後はそうしたテーマを実現できる進路を選択する学生が多く集まっていることである。そうした意識を持つ出願者はFletcherのみならず他の国際関係大学院にも出願する訳であるが、少なくとも意図的に学生間の競争意識を持たせる一部のビジネススクールに集まる学生とは異なる価値観の元に入学してくる学生が多いのは事実であると思う。いずれの分野で仕事をするにしても社会に出れば厳しい競争に晒されることは間違いないので、ビジネススクールが意図的にその状況を学内に作り出すのは納得がいくし、Fletcherのように協力的に仲良くやっていくことだけが良いとは決して思わないが、少なくとも国際関係大学院には競争によって生じる歪みを是正したいという意志を持った学生が多く集まるので、その中で生じるコミュニティは必然的に友好的で協業的なものになるのではないかと思われる。

2点目はFletcherのAdmissions OfficeのFletcherの出願プロセスで特に他校と違う点として、自分自身の人間性に関するエッセイをStatement of Purposeに加えて提出させるという事実がある。このエッセイを通じて、Fletcher特有のコミュニティに馴染み、ポジティブな形で貢献できるということをスクリーニングしているのかもしれない。このプロセスが詳細に行われているのであれば、友好的な人格を有した学生がFletcherのコミュニティ意識を受け継ぎ、自分達の学年においてFletcherらしいコミュニティを創造していくということはあり得る。ただ、これを強く行い過ぎると、人種や国籍を越えた人間性という面での多様性は失われてしまうように思う。もしかするとある程度尖った人格を持った学生が将来どこかの国のリーダーとなって社会に多大な貢献をするかもしれない。人間性のスクリーニングがどこまで強く意識して行われているのかよく分からないが、少なくともFletcherが特有の友好的なコミュニティを形成している一因ではあるように思う。

3点目は合格者が大学院を選択する際の意識だろう。多くの学生は出願校の中から複数の合格を得て、カリキュラムや校風を総合勘案して進学先を決定する。学生が合格校それぞれを同等のレベルと考えるのであれば、最後は校風で判断するかもしれない。コミュニティ意識が強いという評判を持つFletcherの校風をウェブサイトやオープンハウスを通じて知り、それを是としてFletcherを進学先として選択する学生が学年を形成すれば、自然とFletcherの伝統的なコミュニティが新しい年度にも受け継がれることになる。この選択過程で「プラクティカルに授業に集中したい」という意思を持った合格者は専門学校的要素が強いと言われるJohns Hopkins SAISを選択するかもしれないし、「学年全体としてのコミュニティ形成は難しいが、科目や教授陣、学生の厚みがある大きなスクールで勉強したい」という学生はColumbia SIPAを選択するかもしれない。

Fletcherのコミュニティ意識がどの時点で形成されたかは定かではないが、実際に存在することは他校との比較でも間違いない。これを価値と捉えるか問題と捉えるかは、合格者の判断次第だろう。もちろん、Fletcherはコミュニティを持っていて他の国際関係大学院は持っていないという2極ではなく、他の大学院にも魅力的なカラーがある。Georgetown SFSとPrinceton WWSは規模感から必然的に皆知り合いになるし、Columbia SIPAも2年次に専攻を決めた後は50-60人の専攻グループ内で仲良くなるとAdmissionの担当者が言っていた。コミュニティ意識に対する見解は様々だと思うが、少なくとも個人的にはそれが強ければ強いほど良いとは思う。学生同士が繋がろうという意識があれば、学期中困ったときに助け合うことができるし、イベント事などで自然と協力し合うことができる。また、卒業後にもそのネットワークを友人関係においても業務関係においてもそれを将来活用することができる。
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Fletcherのカリキュラムの最大の特徴は、フレキシビリティである。Fletcherの必修科目は他の国際関係大学院に比べると極端に少なく、各専攻におけるコア科目も選択制を採っているものが多い。Fletcherでは2年間で16単位を取得することが卒業要件になっているが、2種類と定められている専攻の履修要件はそれぞれ3-4単位のみで、残りの9-11単位は他の要件を満たす範囲であれば、自由に履修することができる。他の要件とは、ILOから1科目、DHPから2科目、EIBから1科目の履修が義務づけられているBreath Requirementと、数学、統計、経済学入門の中から1科目の履修が義務づけられているQuantitative Requirementといったもので、そうした義務の中にもフレキシビリティが設けられている。

こうした自由度の中で、学生は1年次に各Requirementと専攻科目1つ分のうち、多くを履修する。2年次は2つ目の専攻科目を履修する場合が多いが、1年次に2専攻分の科目の多くを履修している学生も多いため、2年次はほぼ自由に8単位分の授業を選択できる状態になっている場合もある。こうしたフレキシビリティにより、Public and NGO ManagementとHumanitarian Studiesを専攻している学生が、2年次に余った単位でコーポレートファイナンスやアカウンティングの授業を履修し、ビジネス科目を第3の非公式な専攻としてしまうことも可能だ。実際、ファイナンス系のクラスでは、1年次はファイナンスと全く縁の無かったNGO志望の女子学生の姿が目立って増えたりする。

自分の場合はCertificateの履修要件に縛られたため、あまり科目選択の自由度は得られなかったのだが、通常通り2種類の専攻の要件を満たすべく授業を履修している学生は、自分の専門分野と関係のない授業を興味本位で履修することが非常に容易だ。自分の場合は、できるならThe United States専攻の必修科目であるThe Foreign Relations of the United States to/since 1917や、Political Systems & Theoriesの必修科目であるInternational Relations: Theory and Practiceの授業を履修してみたかった。自分の場合はInternational Business RelationsとDevelopment Economicsが専攻だったが、通常のカリキュラムに従えば、アメリカ史や国際関係論のような専攻と関係ない授業の選択も可能である。

Fletcherのカリキュラムのもう一つの大きな特徴は、修士論文の提出を卒業要件としている点にある。これは他の国際関係大学院と明確に異なる点であり、Fletcherが他校に比べてアカデミズム重視と言われる所以である。修士論文に相当するものとして、Johns Hopkins SAISとGeorgetownでは専攻に関する口頭試験、Columbia SIPAではグループでプロジェクトの遂行とレポート提出を行うCapstone Workshopsが課されている。1年次と同じ履修単位を取得しながら修士論文を書くことで、2年次の作業負荷は相当増すが、その分Fletcherでは他の大学院で得られることのない密度の濃いリサーチができるように思う。自分自身も修士論文の単位取得に至るまで相当な労力と時間を要したが、その分論文執筆の手法やリサーチ対象の深い理解といった産物を得ることができ、深い充実感を得ることができた。

他の国際関係大学院が修士論文の執筆を義務付けない中、Fletcherでも修士論文を卒業要件から外し、オプショナルとすべきだという意見が教授会で出ているようだ。自分自身はこれには反対である。修士論文の内容ほど詳細なリサーチを行う機会は通常の授業では得られなかったし、関連する授業で扱われた学術理論も修士論文を執筆することで深く理解することができた。また、強制的に修士論文を書いておくことで、将来Ph.D.を取得する希望を持つに至った学生は、それを出願先に提出することでアカデミアの世界に戻ってくることができる。修士論文の提出義務撤廃が検討される大きな理由は、2年次後半の修士論文執筆が学生の就職に影響するということにあるようだ。これは完全に自己責任であるし、必要なプロセスをタイムリーに踏んでいる学生は、論文執筆と就職活動を両立させることなど苦にしない。

フレキシビリティと修士論文提出がFletcherのカリキュラムを特徴づける二大要素と言える。自分自身はフレキシビリティのメリットを享受することができなかったが、修士論文執筆プロセスからは予想もしていなかったほど貴重な経験をさせてもらうことができた。この点にFletcherの価値を強く感じているため、現在の修士論文提出義務撤廃には反対である。修士論文執筆は自分の研究分野の理解を深める上で非常に有効であるし、Fletcherの教授陣は1学年200名規模の学生に対して我慢強く丁寧なアドバイスを行っている。修士論文執筆を理由に就職できない学生がいるとすれば、現在のように5月16日以降の論文提出者を8月卒業とすることで対処すれば良い。時期的な猶予があれば、学生も論文執筆にプレッシャーを感じることなく就職活動に専念できる。Fletcherが修士論文の提出をオプショナルにしてしまえば、他の国際関係大学院に対する特徴をますます失い、競争力を失うことにもつながりかねない。
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Fletcherは国際関係大学院と定義される大学院および国際関係プログラムを持つ公共政策大学院と競合関係にある。MBAプログラムのように多くの新聞や雑誌がランキングを付けている訳ではないため、一概に大学院同士の優劣は判断できないが、唯一Foreign Policyという雑誌が2年に一度国際関係大学院ランキングを発表しており、それが受験生が進学先を選定する上での数少ない判断基準となる。2012年に発表されたランキングは下記で、Fletcherは現在5位の位置にいる。

The Best International Relations Master's Program (Foreign Policy)
1. Georgetown SFS
2. Johns Hopkins SAIS
3. Harvard KSG
4. Princeton WWS
5. Tufts Fletcher
6. Columbia SIPA
7. George Washington Elliott
8. American SIS
9. LSE
10. Chicago

もちろんこれはある程度バイアスがかかったランキングであり、これが絶対的な力関係ではない。アメリカの雑誌がアメリカの学術機関に所属する研究者へのアンケートを通じて算出した順位であることから、LSEの位置が明らかに低かったり、公共政策大学院のプログラムの一部に国際関係専攻を持っているHarvardとPrincetonや、専門職大学院というよりは研究職養成大学院として位置づけられるChicagoが、国際関係を学ぶ専門職大学院と定義される他の国際関係大学院に混じってランク付けされていたりする。

ただ、このランキングを自分が受験した結果得た合否と照らし合わせると、納得のいくところもある。自分はForeign Policyのランキング以外に受験先の情報収集をする手段をしらなかったので、取りあえず上から順番に6校受験し、US Newsが発表している公共政策大学院ランキングで1位の評価を得ているという理由から、Syracuse Maxwellの国際関係プログラムも受験した。結果は上位4校が不合格で、5位と6位のFletcherとColumbia SIPA、受験当時10位だったSyracuse Maxwellが全額奨学金付き合格というものだった。全て合格した場合は、PrincetonのWWSに行きたいと考えていた。同校は私費留学生に対し学費生活費を全額支給する制度があるからだ。しかし、同校の1学年の人数は60人であり、その中で合格を得られる日本人の人数は恐らく1-2名ということで、合格のハードルは非常に厳しかったと思う。TOEFLやGREの点数の基準も高いだろうし、学費生活費の支給を必要としない官庁等派遣の学生で優秀な出願者がいれば、必然的にそちらを合格させるものと思われる。

費用面での制約を除けば、第一志望はJohns HopkinsのSAISに行きたいと考えていた。同校は米国の政策決定の中心地であるWashington D.C.に所在し、興味を持っていた就職先である世界銀行にSAIS Mafiaと呼ばれる独自のネットワークを築いている。また、開発経済に特化したMaster of Arts in International Developmentというプログラムを最近立ち上げ、国際政治の世界で著名なFrancis Fukuyama教授がプログラムのヘッドに就いていた。結局それらへの合格は叶わなかったので、FletcherとColumbia SIPAの2校から進学先を選択することになったが、その2校であればFletcherに決めようと考えていたので、進学先を迷うことはなかった。1つの理由は費用で、Fletcherが学費の25%分を奨学金として提供してくれたことにあった。SIPAはキャンパスビジットの際にAdmissions Officeから奨学金は1年次は出ないものと想定してほしいと言われていた。2年次になり、1年次のカリキュラムを通常通りこなしていれば、希望に応じて必要ベースの奨学金が出るとのことだった。もう1つの理由は、前職で同じ部署にいたビジネススクールへの留学経験のある先輩が、Columbiaは日本人が非常に多いので、英語の上達や外国人との交流を考えるとFletcherの方が良いとアドバイスしてくれたことにある。

日本人の出願と合否の傾向としては、上位4校が最難関、5、6位の2校が難関ということになるのではないかと思う。Columbia SIPAは国際関係と公共政策の2プログラムを有する上、それぞれのプログラムに1学年400人程度が在籍するので、合格者数も必然的に多くなる。Fletcherも1学年200人程度が在籍するため、ある程度の合格者を出している。正式な情報ではないが、アメリカの国際関係大学院出願者掲示板のようなウェブサイトでは、Fletcherの出願倍率は3.5倍とのことだった。Columbia SIPAに関してはAdmissions Officeが公式データを公開しており、3倍程度とのことである。これに比べると、1学年200人程度ながら10倍の倍率を持つJohns Hopkins SAISや、1学年の人数がそれぞれ60人、90人と非常に少ないPrinceton WWS、Georgetown MSFSは合格を得るのがより困難であると言える。Harvard Kennedy Schoolについては詳細な情報を知らないので分からないが、2年プログラムのMPPでは日本人が1学年1-2名という年もあるらしく、少なくとも日本人の合格率は非常に低いと考えられる。

出願者が合格校の中からどの大学院を選ぶかという問題に関しては、上位6校の中であれば、就職活動やタイトルとしてのレピュテーションという意味で大きな差は生じないように思われる。国連や世界銀行等の国際機関であれば、修士号を持っていればそれをどこで取得したかはあまり問われず、むしろ何に関する修士号かの方が影響するそうである。SAISが世銀に強い、SIPAやFletcherが国連に強いといったように、卒業生ネットワークの中でのコネクションを活用できる機会が大学院により異なるという点はあるが、正規職員を採用するためのYoung Professional Program等のプロセスでは、国際関係大学院間の力関係はあまり考慮されず、むしろどういった授業を履修してきたかという点の方が重要になる。また、ファイナンス分野での経験を重視する世界銀行グループの国際金融公社(IFC)では、国際関係大学院の名前よりもMBAの学生や投資銀行の職務経験者に劣らぬ経験と資質を前職や大学院で身につけたかを問われる。この場合、国際関係大学院内の競争というよりは、他の学位を提供する大学院との競争になる。

このように、上位6校内では社会的なレピュテーションがそれほど変わらない中、それらに複数合格して進学先を選定する場合、軸とすべき点は費用を除いて2点あると考える。1点目は各大学院の学問的重点分野、2点目は卒業生の就職先の傾向である。1点目の学問的重点分野は、大別して経済学重視か政治学重視かという点に分かれる。経済学に重点を置くのはJohns Hopkins SAIS、Harvard KSG、Princeton WWS、Columbia SIPAで、それぞれ1年次にマクロ・ミクロの経済学や統計等を必修科目に据えて全員に学ばせる。政治学に重点を置くのはGeorgetown MSFSとFletcherで、同様に経済学科目を必修科目とはするものの、1-2科目程度履修すれば良いという比較的緩い基準になっている。MSFSでは、経済学科目に関する要件が厳しくない一方で、世界史が必修となっており、重視する学問分野が他のトップ校と明確に異なることを窺わせる。

2点目の就職先の傾向は、立地と各大学院の伝統により大きく異なる。 Johns Hopkins SAISとGeorgetown MSFSは、Washington D.C.に所在するという立地のアドバンテージを活かし、卒業生を世界銀行グループや政策系シンクタンク等に送り込んでいる。D.C.で活動する外部のスピーカーを招待することも容易で、政府・国際機関等の職員とのネットワーキングも行いやすい。Columbia SIPAは、ニューヨークに所在するというアドバンテージを存分に活かせる大学院だと考えられる。国連機関のみならず、金融やメディア等の民間企業が大学から非常に近い場所に存在し、学期中にインターンとして働くことさえ可能である。Jeffrey Sachs等、国連の政策決定に重大な影響を及ぼす学者が数多く存在していることも在籍していることも大きなメリットだろう。Harvard KSGとFletcherに関しては、ボストンの学術機関の集積地、Cambridgeに所在していることがアドバンテージである。就職等のプラクティカルな場面では若干の不利を受けることは否めないが、Harvard、MITを中心とする大学群の中で著名な教授とコンタクトの機会を持ち、学業面または職業面において将来有望なエリート学生と関係を築くことで、将来責任ある立場で業務を進める際に大きな助力となる人脈を得ることになると考えられる。

Fletcherはボストンに所在するという若干の不利を持ちながらも、協力なHarvardとの友好的関係等を利用して、国際関係大学院としての競争力を維持拡大しようと取り組んでいる。2011年の秋学期に履修したInternational Financeの授業では、経済学の苦手な学生が多いFletcher生を前に、教授から「試験の結果に正直驚いた。経済学を全く履修したことのない学生はこの中に何人いる?今回の試験結果からカーブを付けて全員の成績を出すが、良い成績をもらったからと言って決していい気になるな。君たちが卒業して競争しなければならないのは、Johns Hopkinsや他校の経済学が分かっている学生なんだからな。」という檄が飛んだ。教授会では、「Georgetownがこういったプログラムを開始したらしい。」という他校の動向を気にする声などが共有されている。ボストンにいながら、またHarvardのようなあらゆる分野での学術的プレゼンスを持たない中、Fletcherは他の国際関係大学院と競争していなければならない。これまで優位性を保持し続けてきた外交・安全保障といった学問分野だけでなく、他の学問分野や就職といった観点においても、危機感を持ちつつ改善に向けて行動している様子が、在学中顕著に感じられた。
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FletcherはGeorgetownのMSFSと並び、アメリカの外交官養成大学院として知られている。外交官となった学生の正式な就職先は米国国務省(US Department of State)で、学生は外交官になるために、知能テストを含む専門試験や面接を受ける。Fletcherから外交官になる学生は相変わらず多いとは思うが、絶対数は過去に比べて減少しているように思われる。現在は外交官輩出者数において、MSFSに次ぐ全米2位とのことだが、1学年約90人のMSFSが約200人のFletcherよりも外交官を多く輩出しているということで、Fletcher内の外交官志望者数は減少しているようだ。EIB科目の拡充や、国際機関、NGO志望者の増加が原因かも知れない。

外交官養成大学院から多様な進路を希望する学生に対応する国際関係大学院へとシフトする中、就職する人数が増えているのは国際開発銀行とNGOであるように思われる。Fletcherは従来国連への就職に強いと言われ、Fletcher Mafiaと呼ばれる強固なAlumniネットワークにより、学生をコンサルタント職等に登用してきた。一方で近年は開発経済や個別のセクター研究を専攻して、世界銀行やADB等の開発金融機関のコンサルタント職に就く学生が増えているようだ。Fletcherもこうした学生のニーズに応えるべく、EIB科目の拡充を図っているように思われる。また世界的にNGOが成長を見せている中で、NGO出身者がFletcherに入学するケース、卒業生がNGOに就職するケースがそれぞれ増えているようだ。1年次に授業のグループワークで一緒になったアメリカ人の女子学生は、前職はCAREというNGOで、卒業したら多分CAREに戻ると言っていた。

民間セクターについては分からないが、恐らく昔よりも就職先として選ぶ学生は増えていると思われる。学生のバックグラウンドの多様化の中で、MALDという伝統的な学位の履修生の中にBusiness MALDと呼ばれる民間志望の学生集団が出現したり、MIBという準MBA的プログラムができたことで、投資銀行や戦略コンサルティング会社の出身者が増えたりしたことで、民間セクターに就職する学生の絶対数が格段に上がったと思われる。一方で日本人留学生は政府または政府系機関出身者で占められ、大手PEファームで経験を積んだMBA的には価値の高い出願者を一旦Wait Listに入れたりしているので、Fletcherがこの民間セクター経験者/志望者の増加を肯定的に捉えているのかどうかは分からない。

いずれの変化の中でも、政策系科目に比重を置く国際関係大学院であるFletcherの学生が、就職に苦労する傾向にある事実は変わらない。投資銀行やコンサルティングファームは主要なビジネススクールのみに対しリクルーティング活動を行うし、シンクタンクなどは経済学に強い国際関係大学院の方が有利だろう。アメリカ人であれば米国政府に入るというメジャーなルートがあるが、日本人や他国の留学生で転職を目指す人は、世界銀行や国連のコンサルタント職、NGO職員など、Fletcherが確実に強みを発揮できる分野に絞った就職活動を行う覚悟を決めた上で入学すべきだろう。民間セクターへの就職ももちろんできるし、在学中の方向転換も可能だが、ビジネススクールの学生に対してビハインドを負った状態で就職活動に臨むことは、理解しておかなければならない。
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Fletcherでのカリキュラムが終了し、学期中に起きた個別の出来事については一応書き終えた。これから5月末の帰国までは、Fletcherの特徴や今後の課題について、他校との比較を交えながら書いていくことにしたい。第一回目のこの投稿では、Fletcherのアカデミックな面における特徴について書いておこうと思う。

The Fletcher School of Law and Diplomacyという名前の通り、Fletcherのカリキュラムの中核を成すのは伝統的に法律系科目と政策系科目で、その中でも政策系科目の割合が圧倒的に多い。Fletcherの科目群はILO (International Law and Organization)、DHP (Diplomacy, History and Politics)、EIB (Economics and International Business)の3群に分類されているが、DHPの科目数が過半を占めている。EIBは経済学やビジネスに関する科目のニーズに対応して近年力が注がれている科目群で、経この中の済学入門や数学等の科目が2年制プログラムに在籍する学生の必修科目になっている。また、Master in International Business (MIB)という新しい修士プログラムが導入されるなど、注力分野として拡大が図られている。

他の国際関係大学院の中で政策系科目に重点を置いているのは、GeorgetownのMSFSで、教授会等では同校のプログラムの動向を強く意識した議論が為されているそうだ。その他の大学院ではFletcherに比べて経済学を重視する傾向にある。Johns HopkinsのSAISでは、2つの専攻のうち1つは必ずInternational Economicsとすることが課されている。ColumbiaのSIPAでは、1年次にCore Requirementとしてミクロ経済学や統計などの授業を全員が履修するカリキュラムになっており、2年次から専攻を選んで関心分野に注力する形を採っている。Harvard Kennedy Schoolでは、出願時に学部時代におけるミクロ経済学や統計の履修経験と成績を報告するよう求められ、入学後も経済学を軸にしたカリキュラムが課される。実際、SAISやKennedy Schoolにも合格したが、経済学が苦手だからという理由でFletcherを進学先として選択したた学生も存在する。Fletcherが法律・政策科目を軸とした運営を行うことに今後も変わりはないと思われるが、Georgetownのみならず、経済学を重視する他の国際関係大学院にカリキュラムを近づけようという意識が、卒業生向けアンケートの質問内容等からも伺われる。

法律・政策科目中心のFletcherにおいて看板と考えられている学問分野は、国際取引法、安全保障、紛争解決、環境資源政策等。これらの分野にはそれぞれ著名な教授が在籍しており、それぞれの教授に指導を受けるためにFletcherに進学してくる学生は多い。EIBの科目群では開発経済やマイクロファイナンスの人気が学生の間で上昇しているが、コアな経済学を教えるMichael Kleinを除いては、看板と考えられている教授は不在。EIBの科目履修を通じて人気分野の学問的な基礎を習得することはもちろん可能だが、複数の合格先を得た開発経済やマイクロファイナンス志望の受験生をSAISやKennedy Schoolから引っ張り込むだけのカリスマ性を備えた教授は、ILO、DHPに比べると乏しい。今後のFletcherの課題は、国際関係大学院の主流となりつつある経済学を軸としたカリキュラムの充実と、他の大学院に引けを取らない経済学の教授陣の充実にあると思う。
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