Fletcher考察: ④ Fletcherとカリキュラム

Fletcherのカリキュラムの最大の特徴は、フレキシビリティである。Fletcherの必修科目は他の国際関係大学院に比べると極端に少なく、各専攻におけるコア科目も選択制を採っているものが多い。Fletcherでは2年間で16単位を取得することが卒業要件になっているが、2種類と定められている専攻の履修要件はそれぞれ3-4単位のみで、残りの9-11単位は他の要件を満たす範囲であれば、自由に履修することができる。他の要件とは、ILOから1科目、DHPから2科目、EIBから1科目の履修が義務づけられているBreath Requirementと、数学、統計、経済学入門の中から1科目の履修が義務づけられているQuantitative Requirementといったもので、そうした義務の中にもフレキシビリティが設けられている。

こうした自由度の中で、学生は1年次に各Requirementと専攻科目1つ分のうち、多くを履修する。2年次は2つ目の専攻科目を履修する場合が多いが、1年次に2専攻分の科目の多くを履修している学生も多いため、2年次はほぼ自由に8単位分の授業を選択できる状態になっている場合もある。こうしたフレキシビリティにより、Public and NGO ManagementとHumanitarian Studiesを専攻している学生が、2年次に余った単位でコーポレートファイナンスやアカウンティングの授業を履修し、ビジネス科目を第3の非公式な専攻としてしまうことも可能だ。実際、ファイナンス系のクラスでは、1年次はファイナンスと全く縁の無かったNGO志望の女子学生の姿が目立って増えたりする。

自分の場合はCertificateの履修要件に縛られたため、あまり科目選択の自由度は得られなかったのだが、通常通り2種類の専攻の要件を満たすべく授業を履修している学生は、自分の専門分野と関係のない授業を興味本位で履修することが非常に容易だ。自分の場合は、できるならThe United States専攻の必修科目であるThe Foreign Relations of the United States to/since 1917や、Political Systems & Theoriesの必修科目であるInternational Relations: Theory and Practiceの授業を履修してみたかった。自分の場合はInternational Business RelationsとDevelopment Economicsが専攻だったが、通常のカリキュラムに従えば、アメリカ史や国際関係論のような専攻と関係ない授業の選択も可能である。

Fletcherのカリキュラムのもう一つの大きな特徴は、修士論文の提出を卒業要件としている点にある。これは他の国際関係大学院と明確に異なる点であり、Fletcherが他校に比べてアカデミズム重視と言われる所以である。修士論文に相当するものとして、Johns Hopkins SAISとGeorgetownでは専攻に関する口頭試験、Columbia SIPAではグループでプロジェクトの遂行とレポート提出を行うCapstone Workshopsが課されている。1年次と同じ履修単位を取得しながら修士論文を書くことで、2年次の作業負荷は相当増すが、その分Fletcherでは他の大学院で得られることのない密度の濃いリサーチができるように思う。自分自身も修士論文の単位取得に至るまで相当な労力と時間を要したが、その分論文執筆の手法やリサーチ対象の深い理解といった産物を得ることができ、深い充実感を得ることができた。

他の国際関係大学院が修士論文の執筆を義務付けない中、Fletcherでも修士論文を卒業要件から外し、オプショナルとすべきだという意見が教授会で出ているようだ。自分自身はこれには反対である。修士論文の内容ほど詳細なリサーチを行う機会は通常の授業では得られなかったし、関連する授業で扱われた学術理論も修士論文を執筆することで深く理解することができた。また、強制的に修士論文を書いておくことで、将来Ph.D.を取得する希望を持つに至った学生は、それを出願先に提出することでアカデミアの世界に戻ってくることができる。修士論文の提出義務撤廃が検討される大きな理由は、2年次後半の修士論文執筆が学生の就職に影響するということにあるようだ。これは完全に自己責任であるし、必要なプロセスをタイムリーに踏んでいる学生は、論文執筆と就職活動を両立させることなど苦にしない。

フレキシビリティと修士論文提出がFletcherのカリキュラムを特徴づける二大要素と言える。自分自身はフレキシビリティのメリットを享受することができなかったが、修士論文執筆プロセスからは予想もしていなかったほど貴重な経験をさせてもらうことができた。この点にFletcherの価値を強く感じているため、現在の修士論文提出義務撤廃には反対である。修士論文執筆は自分の研究分野の理解を深める上で非常に有効であるし、Fletcherの教授陣は1学年200名規模の学生に対して我慢強く丁寧なアドバイスを行っている。修士論文執筆を理由に就職できない学生がいるとすれば、現在のように5月16日以降の論文提出者を8月卒業とすることで対処すれば良い。時期的な猶予があれば、学生も論文執筆にプレッシャーを感じることなく就職活動に専念できる。Fletcherが修士論文の提出をオプショナルにしてしまえば、他の国際関係大学院に対する特徴をますます失い、競争力を失うことにもつながりかねない。
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