Fletcher考察: ③ Fletcherと競合校

Fletcherは国際関係大学院と定義される大学院および国際関係プログラムを持つ公共政策大学院と競合関係にある。MBAプログラムのように多くの新聞や雑誌がランキングを付けている訳ではないため、一概に大学院同士の優劣は判断できないが、唯一Foreign Policyという雑誌が2年に一度国際関係大学院ランキングを発表しており、それが受験生が進学先を選定する上での数少ない判断基準となる。2012年に発表されたランキングは下記で、Fletcherは現在5位の位置にいる。

The Best International Relations Master's Program (Foreign Policy)
1. Georgetown SFS
2. Johns Hopkins SAIS
3. Harvard KSG
4. Princeton WWS
5. Tufts Fletcher
6. Columbia SIPA
7. George Washington Elliott
8. American SIS
9. LSE
10. Chicago

もちろんこれはある程度バイアスがかかったランキングであり、これが絶対的な力関係ではない。アメリカの雑誌がアメリカの学術機関に所属する研究者へのアンケートを通じて算出した順位であることから、LSEの位置が明らかに低かったり、公共政策大学院のプログラムの一部に国際関係専攻を持っているHarvardとPrincetonや、専門職大学院というよりは研究職養成大学院として位置づけられるChicagoが、国際関係を学ぶ専門職大学院と定義される他の国際関係大学院に混じってランク付けされていたりする。

ただ、このランキングを自分が受験した結果得た合否と照らし合わせると、納得のいくところもある。自分はForeign Policyのランキング以外に受験先の情報収集をする手段をしらなかったので、取りあえず上から順番に6校受験し、US Newsが発表している公共政策大学院ランキングで1位の評価を得ているという理由から、Syracuse Maxwellの国際関係プログラムも受験した。結果は上位4校が不合格で、5位と6位のFletcherとColumbia SIPA、受験当時10位だったSyracuse Maxwellが全額奨学金付き合格というものだった。全て合格した場合は、PrincetonのWWSに行きたいと考えていた。同校は私費留学生に対し学費生活費を全額支給する制度があるからだ。しかし、同校の1学年の人数は60人であり、その中で合格を得られる日本人の人数は恐らく1-2名ということで、合格のハードルは非常に厳しかったと思う。TOEFLやGREの点数の基準も高いだろうし、学費生活費の支給を必要としない官庁等派遣の学生で優秀な出願者がいれば、必然的にそちらを合格させるものと思われる。

費用面での制約を除けば、第一志望はJohns HopkinsのSAISに行きたいと考えていた。同校は米国の政策決定の中心地であるWashington D.C.に所在し、興味を持っていた就職先である世界銀行にSAIS Mafiaと呼ばれる独自のネットワークを築いている。また、開発経済に特化したMaster of Arts in International Developmentというプログラムを最近立ち上げ、国際政治の世界で著名なFrancis Fukuyama教授がプログラムのヘッドに就いていた。結局それらへの合格は叶わなかったので、FletcherとColumbia SIPAの2校から進学先を選択することになったが、その2校であればFletcherに決めようと考えていたので、進学先を迷うことはなかった。1つの理由は費用で、Fletcherが学費の25%分を奨学金として提供してくれたことにあった。SIPAはキャンパスビジットの際にAdmissions Officeから奨学金は1年次は出ないものと想定してほしいと言われていた。2年次になり、1年次のカリキュラムを通常通りこなしていれば、希望に応じて必要ベースの奨学金が出るとのことだった。もう1つの理由は、前職で同じ部署にいたビジネススクールへの留学経験のある先輩が、Columbiaは日本人が非常に多いので、英語の上達や外国人との交流を考えるとFletcherの方が良いとアドバイスしてくれたことにある。

日本人の出願と合否の傾向としては、上位4校が最難関、5、6位の2校が難関ということになるのではないかと思う。Columbia SIPAは国際関係と公共政策の2プログラムを有する上、それぞれのプログラムに1学年400人程度が在籍するので、合格者数も必然的に多くなる。Fletcherも1学年200人程度が在籍するため、ある程度の合格者を出している。正式な情報ではないが、アメリカの国際関係大学院出願者掲示板のようなウェブサイトでは、Fletcherの出願倍率は3.5倍とのことだった。Columbia SIPAに関してはAdmissions Officeが公式データを公開しており、3倍程度とのことである。これに比べると、1学年200人程度ながら10倍の倍率を持つJohns Hopkins SAISや、1学年の人数がそれぞれ60人、90人と非常に少ないPrinceton WWS、Georgetown MSFSは合格を得るのがより困難であると言える。Harvard Kennedy Schoolについては詳細な情報を知らないので分からないが、2年プログラムのMPPでは日本人が1学年1-2名という年もあるらしく、少なくとも日本人の合格率は非常に低いと考えられる。

出願者が合格校の中からどの大学院を選ぶかという問題に関しては、上位6校の中であれば、就職活動やタイトルとしてのレピュテーションという意味で大きな差は生じないように思われる。国連や世界銀行等の国際機関であれば、修士号を持っていればそれをどこで取得したかはあまり問われず、むしろ何に関する修士号かの方が影響するそうである。SAISが世銀に強い、SIPAやFletcherが国連に強いといったように、卒業生ネットワークの中でのコネクションを活用できる機会が大学院により異なるという点はあるが、正規職員を採用するためのYoung Professional Program等のプロセスでは、国際関係大学院間の力関係はあまり考慮されず、むしろどういった授業を履修してきたかという点の方が重要になる。また、ファイナンス分野での経験を重視する世界銀行グループの国際金融公社(IFC)では、国際関係大学院の名前よりもMBAの学生や投資銀行の職務経験者に劣らぬ経験と資質を前職や大学院で身につけたかを問われる。この場合、国際関係大学院内の競争というよりは、他の学位を提供する大学院との競争になる。

このように、上位6校内では社会的なレピュテーションがそれほど変わらない中、それらに複数合格して進学先を選定する場合、軸とすべき点は費用を除いて2点あると考える。1点目は各大学院の学問的重点分野、2点目は卒業生の就職先の傾向である。1点目の学問的重点分野は、大別して経済学重視か政治学重視かという点に分かれる。経済学に重点を置くのはJohns Hopkins SAIS、Harvard KSG、Princeton WWS、Columbia SIPAで、それぞれ1年次にマクロ・ミクロの経済学や統計等を必修科目に据えて全員に学ばせる。政治学に重点を置くのはGeorgetown MSFSとFletcherで、同様に経済学科目を必修科目とはするものの、1-2科目程度履修すれば良いという比較的緩い基準になっている。MSFSでは、経済学科目に関する要件が厳しくない一方で、世界史が必修となっており、重視する学問分野が他のトップ校と明確に異なることを窺わせる。

2点目の就職先の傾向は、立地と各大学院の伝統により大きく異なる。 Johns Hopkins SAISとGeorgetown MSFSは、Washington D.C.に所在するという立地のアドバンテージを活かし、卒業生を世界銀行グループや政策系シンクタンク等に送り込んでいる。D.C.で活動する外部のスピーカーを招待することも容易で、政府・国際機関等の職員とのネットワーキングも行いやすい。Columbia SIPAは、ニューヨークに所在するというアドバンテージを存分に活かせる大学院だと考えられる。国連機関のみならず、金融やメディア等の民間企業が大学から非常に近い場所に存在し、学期中にインターンとして働くことさえ可能である。Jeffrey Sachs等、国連の政策決定に重大な影響を及ぼす学者が数多く存在していることも在籍していることも大きなメリットだろう。Harvard KSGとFletcherに関しては、ボストンの学術機関の集積地、Cambridgeに所在していることがアドバンテージである。就職等のプラクティカルな場面では若干の不利を受けることは否めないが、Harvard、MITを中心とする大学群の中で著名な教授とコンタクトの機会を持ち、学業面または職業面において将来有望なエリート学生と関係を築くことで、将来責任ある立場で業務を進める際に大きな助力となる人脈を得ることになると考えられる。

Fletcherはボストンに所在するという若干の不利を持ちながらも、協力なHarvardとの友好的関係等を利用して、国際関係大学院としての競争力を維持拡大しようと取り組んでいる。2011年の秋学期に履修したInternational Financeの授業では、経済学の苦手な学生が多いFletcher生を前に、教授から「試験の結果に正直驚いた。経済学を全く履修したことのない学生はこの中に何人いる?今回の試験結果からカーブを付けて全員の成績を出すが、良い成績をもらったからと言って決していい気になるな。君たちが卒業して競争しなければならないのは、Johns Hopkinsや他校の経済学が分かっている学生なんだからな。」という檄が飛んだ。教授会では、「Georgetownがこういったプログラムを開始したらしい。」という他校の動向を気にする声などが共有されている。ボストンにいながら、またHarvardのようなあらゆる分野での学術的プレゼンスを持たない中、Fletcherは他の国際関係大学院と競争していなければならない。これまで優位性を保持し続けてきた外交・安全保障といった学問分野だけでなく、他の学問分野や就職といった観点においても、危機感を持ちつつ改善に向けて行動している様子が、在学中顕著に感じられた。
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