冬休み2011-12 ⑩

iTunesで『孤高のメス』という映画を観た。この映画は、近隣の大学病院から出向している事なかれ主義的な医師達によって浸食された地方の市民病院の医療を、外部から来た1人の外科医が、高い技術と地域医療に対する強い意志によって立て直すという内容。

主演は堤真一で、シリアスな役だった『プリンセス・トヨトミ』の松平検査官以上に真面目で正義感の強い役柄だった。Pittsburg大学で生体肝移植の権威に付いて学んできたという医師の役で、様々な外科手術を見事にこなし、最後には日本では法律への抵触がグレーゾーンとされている脳死肝移植に挑む。手術のシーンは、役者の動きも人工的に作られた臓器もよくできていて、全く違和感がなかった。メスさばきや縫合は本物を見たことがないので分からない範囲ではあるのだが、血流を止めて手術した臓器に血液を流すシーンなどは、質感のある臓器が徐々に赤みを帯びていく様子が反映されていて、よくここまでできるなと感心した。

大学病院から来ている医師達はあからさまな悪役で、手術で簡単に動脈を傷つけたり、キャバクラのようなところで遊んだり、部屋でポルノ雑誌を見ていたり、タバコを引っ切りなしに吸い続けていたりする。これほどまでに悪くて手術も下手な医師がいるとは思えないのだが、正義と悪を明確に対照化するためには仕方のない設定なのかもしれない。

この映画で一番驚いたのは、シーン作りの細やかさだ。主人公がPittsburgh大学にいた時期に大学の石碑の前で撮った写真が、部屋の中に並べられた数十枚の写真の中の1枚として出てくる。これが、自分が冬休みにPittsburgh大学の前で撮った写真と全く場所で撮られたものだったのだ。Pittsburgh大学がどのような大学か誰も知らないだろうし、その石碑に至ってはどのような形をしているか誰も分からないだろう。自分もたまたまPittsburgh大学に行ったからそれがあの場所で撮られたものだと分かったが、そうでなければ絶対流してしまう。しかもその写真は数十枚出てくる思い出写真の中の1枚で、主人公がそれを手に取ることさえないので、劇中でほとんど役目がない。恐らく合成なのだとは思うが、敢えてPittsburgh大学時代の写真を誰も気づかないようなシーンのために作ってしまうところに驚いた。そこに驚けたということで、Pittsburghに行ってみて良かったと逆に思ったりもした。

この映画は日本アカデミー賞作品賞を取った映画だそう。正義と悪の対比があからさま過ぎて、そこだけはあまり好きになれなかったが、地域医療の問題や病院の腐敗体質がある程度のリアリティを持って描かれていたので、全体的に良い映画だったと思った。Pittsburgh大学で撮った写真まで作ったという事実についてはどうしても贔屓目に見てしまうのだが、そこまで細かく気を配っていることに好感が持てる。
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