人気ブログランキング | 話題のタグを見る

書評⑦『フージーズ』

フージーズ――難民の少年サッカーチームと小さな町の物語

ウォーレン セント ジョン / 英治出版

米国ジョージア州アトランタ郊外のクラークストン市で活動する難民少年サッカーチームについて、ニューヨークタイムズ紙の記者である著者がドキュメンタリーとして書いた本。単にサッカーチームの日々を追うだけでなく、各選手が難民としてクラークストンへ来るに至った経緯をジャーナリスティックに描いている。コンゴ民主、スーダン、コソボ等、選手が難民として祖国を捨てざるを得なくなった各国の紛争の経緯や、各選手とその家族がその中でどのように難民として渡米する権利を得、現在に至っているかを政治的視点と難民個別の視点から詳細に取材し、説明している。

難民それぞれの背景に留まらず、 サッカーチームの運営上の困難として立ちはだかるクラークストン市長、YMCA担当者、治安の悪い同市内で起きる犯罪等に関する入念な取材に基づく記述もジャーナリストならではという内容になっている。主題となるサッカーチームに関する情報に留まらない情報収集は、記者としての職務に就いている著者によってこそ可能になったものであると思う。

サッカーの試合に関するシーンは頻繁に登場し、ページ数が割かれている分臨場感もあって興味深く読めるが、読者としてより興味を覚え、恐らく著者が本書を通じて最も伝達したかったことと考えられるのは、個の力では覆し得ない暴力や圧政によって異なる場所で人生を送ることを余儀なくされた人々が懸命に生きようとする姿である。主人公的な存在として本書で扱われるサッカーチームの女性コーチも、難民の少年達をサッカーに熱中させることで地元ギャング等による危険から守ろうという意図を持って活動している。

難民の少年達とその家族は、祖国で父親が暗殺または投獄されたり、近隣住民が殺されたりする中を辛うじて逃げ、難民キャンプに到着して移住を待っていたという経緯を持つ。そうした少年達にスポットライトを当てている本書は一見弱者救済という美談で片付けられるルポに感じられるが、その実はより現実的で、国際紛争がもたらす悲惨な弊害と、それに影響を受けた難民達が移住先でもなお苦しみながら日々を生きなければならない問題を読者に向けて提示しており、内容に幅(各選手の祖国における逸話とクラークストン市での生活)と深み(入念な取材に基づく国際紛争やクラークストン市政、各選手の心情や家庭環境の詳述)の両方が存在する。

スコア:


by ubuntuk | 2010-11-13 14:28 | 書評
←menuへ